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イベントレポート:Design Node Vol.2 「AI時代、デザイナーはどう生き残るのか 〜求められる素養とキャリアの転換点〜」

坪田朋、田中裕一、小木曽槙一、多湖大師

投稿日2026年08月19日
更新日2026年08月19日

武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスの共創スペース「Co-Creation Space Ma」にて、オプサー(株式会社ヒューリズム)が主催するトークイベント「Design Node」の第2回が開催されました。

本レポートでは、実務の第一線で活動するクリエイター・デザイナーである坪田朋氏、田中裕一氏、小木曽槙一氏をお迎えし、「AI時代、デザイナーはどう生き残るのか 〜求められる素養とキャリアの転換点〜」をテーマに行われたセッションの模様をお届けします。

AIの進化により、アウトプット制作や情報整理といった業務の効率化が急速に進む一方で、人が担うべき領域の重要性は増しています。最前線でAIと向き合うトップランナーたちは、今まさに現場で何を感じ、次世代のデザイナーにどのような姿勢を求めているのでしょうか。

Design Nodeとは?
「DesignNode」は、クリエイターと企業のビジネスマッチングサービスを運営する「オプサー(opusr)」が掲げている「Create Design Cycle~デザインで社会を循環させる~」のミッションに基づいて、単独主催する新たなトークセッションシリーズです。
昨今のAIに関する情報の氾濫に対し、単なる流行や効率化の議論ではなく、現場の試行錯誤から生まれる「本質的な問い」を共有し、参加者が自らの向き合い方を考えるきっかけを創出することを目指しています。

スピーカー

坪田 朋 氏
クラシル株式会社 上級執行役員 CPO

livedoor、DeNAなどで多くの新規事業立ち上げやUIUXデザイン領域を専門とするデザイン組織の立ち上げを手掛ける。
BCGにて大企業とのジョイントベンチャー立ち上げ「Basecamp」を立ち上げてスタートアップの事業創出を支援。
2019年7月に株式会社Basecampを起業後delyに売却、同時にクラシル株式会社のCXOを経てCPOに就任。

田中 裕一 氏
株式会社MUSUBI 代表取締役

2012年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。Eコマース事業のデザイン統括、新規事業の立ち上げに従事。
2017年に入社した株式会社ビズリーチでは、執行役員CDOとしてデザイン本部長、プロダクト組織開発本部長、数々のチェンジマネジメントを歴任。
2025年、株式会社MUSUBIを創業。デザインとビジネスとテクノロジー、経営と現場をまたぎ続けた実践経験を活かし「創造性教育、組織の変革支援、AIソリューション」などの事業を立ち上げ、推進。

小木曽 槙一 氏
株式会社Lumilinks  代表取締役/デザイナー

受託制作会社でデザイナー・エンジニアとして勤務後、さくらインターネットでプロダクト開発に携わる。
2020年にSmartHRへ入社し、プロダクトデザイナーとしてデザインシステムやプロダクト開発を担当。
生成AIベンチャー、0→1スタートアップでのデザイナー経験を経て、現在はプロダクトデザインを軸に、AI活用コンサルティングや組織支援、コミュニティ事業を展開している。

AIによる環境の激変:「UIデザイナー」のプロセスはどう変わったか

セッションの冒頭、オプサーの多湖がモデレーターとなり、直近の半年間でデザイナーを取り巻く環境がどのように変化したのか、現場のリアルな実態について問いかけました。

クラシル株式会社でCPOを務める坪田氏は、社内でのUIデザインのプロセスが「激変した」と語ります。
「今年の2月頃から、UIデザイナーが要件を聞いてFigmaでデザインを起こし、それを元にエンジニアがプロトタイプを作るというプロセスがなくなりました。
今はFigmaをほぼ使わず、ClaudeなどのAIを使ってコードを直接書き、Mac上でXcodeのエディタを立ち上げてUIを作っていく流れに変わっています」

こうした変化に伴い、「ただUIデザインを作るだけの職種はなくなりつつある」と坪田氏は指摘します。

坪田朋 氏
坪田朋 氏

デザイン組織の支援を行う小木曽氏もこれに同意し、
「小さい組織ほどその流れは加速しています。Figmaを契約せず、GitHub上のイシューとPull RequestだけでUIを作成し、AIによる自動チェックを走らせて完結させる環境が当たり前になってきています」
と、制作現場のドラスティックな変化を明かしました。

株式会社MUSUBIの田中氏は、こうした効率化の波によってビジネス側の動きも変わっていると語ります。

「UIを作るだけの工程はPM(プロジェクトマネージャー)がAIを使ってプロトタイプを実装できてしまうため、狭い領域の仕事はどんどん少なくなっていく傾向にあります。逆に、事業と顧客に深く突っ込んで要求を作ったり整理できる人や、人の感情を動かすナラティブやストーリーテリングができる人のニーズは劇的に上がっています」

さらに坪田氏は、マーケティングにおけるコミュニケーションデザインの領域でも変化が起きていると語ります。

「顧客獲得のためのバナーや動画広告といったクリエイティブは、かつては代理店に外注していましたが、今では完全に社内でAIを活用して量産し、若手社員が自分で管理画面を見ながら運用しています。
ビジネスをグロースさせるためには、AIを使ってデータドリブンに大量のパターンを回す方が、経済合理性が高いからです」

デザイナーが勝手に決める「クオリティのバー」のジレンマ

このAIによる量産化と経済合理性の話に関連して、議論はデザイナーが設定する「クオリティのバー(基準)」へと及びました。

坪田氏は、美しいシンプルなデザインを作ったとしてもグロースしないサービスは多いと指摘し、
「富裕層向けのブランディングを大事にしているサービスと、多くの消費者に届けるためにデータドリブンな雑多さも必要なサービスとの棲み分けが顕著になってきている」と語ります。

これに対し小木曽氏は、「デザイナー自身が『このクオリティじゃないと出せない』と勝手にバーを決めてしまっていることもある。実はビジネス的にはこれで十分ではないか、というケースは多い」と、デザイナー側の固定観念に疑問を投げかけました。

坪田氏はこの「デザイナーの感情」と「ビジネスの合理性」のズレが、組織内でハレーションを生みやすい、と付け加えます。

「デザイナーとしては常にクオリティのバーを上げていきたいものですが、ビジネス合理的に考えると上げない時もあります。このギャップが起きた時、デザイナーは嫌な気持ちになりやすい。しかし、その感情をビジネス的な視点にスイッチングできるかが重要です。こうした視点の切り替えができる人は、経営に近い層に入っていくことが多いと感じます

デザイナーに求められる素養:「自由を楽しむ力」と「働く場所を選ぶ力」

AIによって「作る」プロセスがコモディティ化していく中、デザイナーにはどのような素養が求められるのでしょうか。

田中氏は「自由を楽しめる人」というキーワードを挙げました。
「AIで一定のクオリティが出せる時代において、誰かが決めた物差しや評価軸に合わせるだけの仕事はつまらなくなっていきます。自分で仮説を立て、自分で評価のバー(基準)を決め、その責任を負いながらも自分たちの解を見つけ出す。誰かの評価に委ねられない怖さはあると思いますが、その自由を楽しめるかどうかが重要だと思います。」

田中裕一 氏
田中裕一 氏

一方、坪田氏は歴史的な観点から「どこで働くかを決める能力」の重要性を説きました。

「約100年前のバウハウスの時代に起きた『アーツ・アンド・クラフツ運動』と同じことが起きていると考えています。
機械(AI)による量産で効率化を求める企業と、手作業の魂を乗せたアート性の高いクリエイティブ(クラフト)を求める環境に二極化していくでしょう。
もし自分が後者のような表現を追求したいのであれば、AIによる合理化を徹底している企業を選ぶと必ずミスマッチが起きます。自分の思想と合致する企業や環境を探し当てることが、何よりも大事になります」

クラフトの未来と雇用環境:指名経済とプロフェッショナルの条件

続いて議論は、クラフト(職人的なモノづくり)の価値と、今後の雇用環境へと移りました。

小木曽氏は、デジタル領域のアウトプットの差が埋まっていく未来において、「指名経済」が加速すると予測します。
「デジタルで作るもの自体に大きな差が出なくなると、『この人にお願いしたい』『この人と一緒に仕事がしたい』という属人性が極まります。その人が作ったという事実そのものに価値が生まれるようになるはずです」

また、田中氏は、AI時代だからこそ生まれる新たなクラフトの形として、個人開発のバーチカル(特化型)なプロダクトの事例を紹介しました。
「企業では経済合理性の観点から企画を通しづらいニッチなサービスでも、今はAIを使えば個人で低コストに作れてしまう。専門家でなくても、自分の意思決定でプロダクトを生み出せる、とても面白い時代になっています」

では、誰もが平均点を出せる時代において、頭一つ抜け出す「プロ」の条件とは何でしょうか。

小木曽氏は「圧倒的な試行回数」を挙げます。
「簡単に作れるからこそ、息をするように大量のアウトプットを出し、試行錯誤を楽しめる人が結局は伸びます。できる人は、出している数や密度が圧倒的に違います」

坪田氏は「エクストリーム(外れ値)を見出す力」だと語ります。
「ヒットサービスはコモディティ(平均値)からは生まれません。平均から外れたユーザーの熱量を見出し、それを形にしてステークホルダーを説得し、世に出し切れる人こそがプロフェッショナルです」

田中氏は「見識の広さ」を強調しました。
「デザインだけでなく、他のビジネスモデルや、およそビジネスに関係の無いこと、例えば趣味や、ふとした瞬間に五感に届く、身の回りの様々な世界を楽しめること。その見識があるからこそ、別の領域のアイデアを類推し、新しいものを生み出すことができます。」

左:坪田朋 氏 / 中央:田中裕一 氏 / 右:小木曽槙一 氏
左:坪田朋 氏 / 中央:田中裕一 氏 / 右:小木曽槙一 氏

AIの「ハーネス」化が進んだ先に残るもの

さらに議論は、AIを実務に組み込む仕組みである「ハーネス」という概念へと深まりました。
(ハーネスとは、大規模言語モデル(LLM)をベースにユーザーが条件を規定し、ツール実行や状態・文脈管理、安全制御を行う実行基盤や仕組み)

坪田氏は、直近の数年間の雇用ニーズについて「AIを導入し、判断の機構を『ハーネス』として仕組み化・推進できる人は、どこに行っても絶対的に重宝される」と断言します。

これを受け、「ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間が介在してAIを評価・学習させる仕組み)で知見をストックし、自動で回るループが完成してAIができることが増えた先に、デザイナーには一体何が残るのか?」という根源的な問いが投げかけられました。

この問いに対し、極論として「営業です」と答える小木曽氏。
「UIデザインなどのオペレーティブな仕事がAIやエンジニアでも一定レベルでできるようになると、最終的に生き残るデザイナーは、顧客の前に直接立って課題をヒアリングし、価値を提示するポジションに落ち着くはずです。これはエンジニア界隈で近年注目されているFDE(Forward Deployed Engineer:顧客の現場に入り込んで課題解決を行うエンジニア)という職種にも似ています。従来のクラフトだけをやっていると、やはり厳しくなるでしょう」と、顧客との直接的な接点と課題解決能力こそが、最後に残る代替不可能な価値であると語りました。

左:坪田朋 氏 / 右: 小木曽槙一 氏
左:坪田朋 氏 / 右: 小木曽槙一 氏


明日からどう動くか:AIを使い倒し、「やんちゃ」に突破する

セッションの締めくくりとして、明日からデザイナーがどう行動すべきかについて、三者三様の力強いメッセージが送られました。

小木曽氏は、現状を冷静に見つめ直すことを推奨します。
「デザインという行為自体はなくなりませんが、従来のオペレーティブな席は確実に減っていきます。だからこそ、自分がどのポジションで価値を出せるのか、どの席に座りたいのかを考えながら動くことが重要です」

田中氏は、「やんちゃすること」を提案し、会場を沸かせました。
「経営層や顧客に対して、KPIなどの枠組みに囚われすぎず、『もっとこうしたら面白いんじゃないか』と、メタな視点から考えて、言葉にして、行動してみる。デザインをやっている人は、そういう本質的な違和感、真理性に気づきやすいですよね。空振りに終わることもありますが、小さな成功体験を積めば突破口が開けます。言うだけならタダですから、もっと元気にやんちゃしてほしいですね」

最後に坪田氏は、AIの習熟と「必要な摩擦」について語りました。
「基礎スキルは当然必要ですが、その上でAIをどれだけ使いこなせるかが生き残るための絶対条件になります。そして、大企業の中でデジタルでは数値化できない『熱いハート』を持った提案ができるのは、やんちゃなデザイナーだけです。最初は向かい風でも、その必要な摩擦を乗り越えて新しい先を作ることは、すごく夢がある面白い仕事です」

多湖大師 氏 / 坪田朋 氏 / 田中裕一 氏 / 小木曽槙一 氏
左から:多湖大師 氏 / 坪田朋 氏 / 田中裕一 氏 / 小木曽槙一 氏

今後のご案内

ゲストスピーカーのお三方、そしてご参加いただいた皆様のおかげで、第2回「Design Node」も盛況のうちに幕を閉じることができました。
オプサーでは今後も、デザイナーやクリエイターの皆様が現場のリアルな知見をアップデートし、互いに刺激し合えるようなイベントを企画してまいります。

トークイベントや勉強会に関する次回のご案内については、Peatixアカウントにてお知らせいたしますので、ぜひフォローをお願いいたします。
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