
パートナー依存からの脱却、部分的インハウスへ~D2Cブランド「すっぽん小町」の挑戦~
株式会社生活総合サービス 三好 克明
業界や分野問わず”デザイン”に関わる方々に、目的や信念、その領域におけるデザインに関する考え方やノウハウを伺っていくコンテンツシリーズ「◯◯のデザイン」。
D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドが、顧客との直接的な関係性を深め、ブランドの世界観をより強く打ち出すためには、マーケティング組織の変革が不可欠です。本記事では、人気のサプリメント「すっぽん小町」を展開する株式会社ていねい通販が、マーケティング活動の外部パートナー依存から脱却し、部分的インハウスへと組織を移行させた軌跡を辿ります。オプサーを通じてハイクラスなクリエイターと直接連携することで、クリエイティブの質を飛躍的に向上させ、広告運用の効率化を実現した同社の事例を通じて、組織変革の過程で直面した課題、それを乗り越えるための戦略、そして得られた具体的な成果に至るまでを解説します。

株式会社生活総合サービス
マーケティング部 新規広告リーダー
三好 克明
2014年に新卒で入社。コールセンターをはじめとしたカスタマー業務を経験した後、フロント商品のデジタル広告領域を担当。現在はマーケティング部の責任者として、新規顧客獲得を中心とする業務に従事。
次なる成長を見据え部分的インハウス化へ組織体制を変更
―早速ですが、ていねい通販さんのマーケティング組織の変遷についてお伺いできますか。
三好
弊社は、いわゆるD2Cモデルで「すっぽん小町」と「boco to deco(ボコとデコ)」を展開しています。その中でも、私自身は、すっぽん小町の新規獲得が主な役割ですが、ボコとデコについても立ち上げ時から関わり、デジタルマーケティング領域を担当しています。
マーケティング組織という観点でいくと、我々はD2C型のビジネスモデルですので、主にデジタル上の広告コミュニケーションや、ECサイト上でのコミュニケーションがお客様との重要なコンタクトポイントになります。
これらのマーケティング活動について、以前は外部のパートナーさんに広告のクリエイティブ制作や広告運用のほとんどをお任せしており、パートナーさんと二人三脚で、売上をどんどん伸ばしていこうという方針をとっていました。
―そこから、部分的インハウスへと移行されたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?
三好
きっかけはいくつかあったのですが、一番大きかったのは、外部のパートナーさんに依存しすぎることのリスクを感じたことです。売上が伸びている時は良いのですが、売上が停滞して広告予算が下がると、ビジネスの都合上、どうしても優先順位が下がってしまう事もあります。担当者が変わったり、リソースが減ったりして、私たちの意図が伝わりにくくなることもありました。
―なるほど。代理店に依存することに限界を感じたと。
三好
もちろん、広告代理店さんには多様な業界のナレッジがあって、私たちにはない知見を与えてくれるという大きなメリットもあります。でも、D2Cは私たちのような製造元が、お客様に直接商品を販売するビジネスモデルです。商品のこと、お客様のことを一番理解しているのは私たち自身でなければなりません。自分たちのブランドの世界観やお客様との関係性を大事にしたかったので、クリエイティブ制作や広告運用をもっと自分たちの手で責任をもってコントロールしなければならないと思うようになりました。

―そのような部分的インハウス体制に移行する中で、オプサーを利用して、外部のクリエイターと直接やり取りするという選択をされたんですね。
三好
はい。最初は、他のクリエイターマッチングサービスなども検討したのですが、クリエイター側が抱えている案件が多いとなかなか柔軟に対応してもらえない場合がありました。また、自分たちが求めるクオリティに合うクリエイターさんと出会うのが難しいという課題も感じていました。そんな時にオプサーを知って、高い実力と実績を誇るクリエイターさんと直接やり取りできるという点に魅力を感じました。
部分的インハウス、想定通りの成果と、意図せざる結果
―結論を先取りする形になりますが、ていねい通販さまの事例と一般論をもとに、マーケティング活動の外部委託パターン、部分的インハウス型、完全インハウス型のメリットやデメリットを整理すると以下のようになると思います。

―上表に基づいて、さらに踏み込んで聞いていきたいのですが、実際に、部分的インハウスの体制に移行してみて、いかがでしたか?
三好
率直に、すごく良かったですね。一番大きかったのは、伝えたいメッセージや感じてほしい世界観のクリエイティブを生み出しやすくなった事です。自分たちのブランドの世界観やお客様への想いを、クリエイターさんに直接伝えることができるので、意図がダイレクトに伝わる。クリエイターさんも私たちの想いを汲み取って、期待以上のクリエイティブを提案してくれたと思います。
―新たな体制や、クリエイターとの直接やり取りは、御社にとってどのようなメリットがありましたか?

三好
情報伝達のロスが減り、自分たちの意図をダイレクトに反映できるようになったことが一番大きいですね。間に入ってくれるパートナーさんを通すと、どうしても伝言ゲームのようになってしまう。もちろん、間に入ってくれることで、私たちの負担が減るというメリットもあります。でも、クリエイティブの細部にまでこだわりたい私たちにとっては、クリエイターさんと直接やり取りできることのメリットの方が大きかったと思います。
―なるほど。クリエイティブの質が向上したことで、広告運用にも良い影響があったのでしょうか?
三好
はい、広告運用も大きく改善しました。クリエイティブと運用を一体で考えることができるようになったので、PDCAサイクルを高速で回せるようになりました。以前は、クリエイティブの変更に時間がかかり、タイムリーな広告運用ができませんでした。でも、今はクリエイティブの変更もスピーディーに行えるようになり、より効果的な広告運用ができるようになっています。
―具体的には、どのような成果が得られましたか?

三好
2024年3月と2025年3月を比較すると、運用型広告のCV数(コンバージョン数)が2倍近く向上し、CPA(顧客獲得単価)が30%改善、制作費も半分以下となりました。運用件数も増え、以前よりも少ない予算でより多くのお客様を獲得できるようになりました。特に、制作費の削減は大きなインパクトがありました。その分を広告運用に回すことができたのも一つの要因と言えます。
―それは素晴らしい成果ですね。
三好
ありがとうございます。さらに自分たちの手でブランドを育てているという実感を得られたことはとても良かったです。。以前は、パートナーさんにお任せだったので、どこか他人事のように感じていました。でも、今はクリエイティブも広告運用も自分たちの手で行っているので、お客様からの反応がダイレクトに伝わってきます。実際、お客様から「すっぽん小町のバナーやLPの雰囲気が変わった」といったポジティブなお声をいただいた時は、本当に嬉しかったですし、もっと良いものを作ろうというモチベーションにも繋がります。
部分的インハウスから見えた、新たな課題と伸びしろ

―部分的インハウスの組織体制において、苦労した点はありましたか?
三好
LP(ランディングページ)などのディレクションは以前から自分たちで行っていたので、比較的スムーズに進めることができました。しかし、バナー広告など大量に制作し、それぞれコピー開発しなければいけない領域においては、PDCA・ディレクションノウハウが全くなく、苦労しました。どのコピーが効果的なのか、どのようにクリエイティブを改善していけばいいのか、手探りの状態からのスタートでした。
―その課題はどのように解決されたのでしょうか?
三好
オプサーで出会ったクリエイターさんの中に、D2Cのノウハウを持っていたり、自走して提案してくれる方がいたことが、短期間での解決につながりました。特に、クリエイティブの改善提案に関するアドバイスは、私たちにとって非常に貴重でした。クリエイターさんと連携することで、ノウハウ不足を補い、効率的にPDCAを回せるようになったんです。
―社外パートナーとのコミュニケーションで重要だと思うことはありますか?
三好
自分たちと同じ目線に立ってもらうための情報量を与え続けるということですね。結局、解釈の違いって、もともと持っている情報量の違いでしか起こりえないと思っています。
―同じ目線に立ってもらうための情報量ですか?
三好
一つのクリエイティブにおいてとか、何かの判断においても、きちんとした情報をすべてみんなが把握していたら、判断がぶれることはあまり起きないのではないかと考えています。したがって、外部のパートナーの方にも、現状の数値とか広告費がどれぐらい使い、どのような配信をして、どれだけのコンバージョンが取れて、そのコンバージョンが我々のビジネスにとってどんな意味があるのかといったビジネスの全体像の話から、月間の獲得件数とか、配信金額みたいな細かなプロセスや結果までもできる限り開示し、共有することが重要だと捉えています。外部のパートナーとはいえ、インハウスの我々とほぼ全く同じマインドを持ちながらコミュニケーションをとることができたら、より良いチームとしてワークすると考えています。
―それは、代理店ではなかなかできないことですよね。
三好
やり取りをする方が多くなればなるほど浸透率は薄れてきますし、どうしても情報の壁やマインドの差ができてしまうので難しいところはありますね。クリエイターさんとの直接のやり取りだからこそ、できることも多いと思います。
部分的インハウスで得られる成長

―今後の展望についてお聞かせください。
三好
今の部分的インハウス体制は維持しながら、できることを増やしていきたいですね。新たな事業やブランドの柱を作る時は、どうしてもリソースが不足しがちです。そうした状況に直面すれば、やはり外部の力を借りる瞬間というのは出てくるかもしれません。ただ、インハウス型の運用で得られる経験や知識が、組織の活性化やレベルアップにつながるのは間違いありません。まぁ、その分、やることは多くなるので大変ではあるのですが(笑)。
これまでの経験で得られたものを活かしながら、自分達でできることは実直に積み上げながら、企業やブランドを成長させたいと思います。
―最後に、この記事を読んでいる方々にメッセージをお願いします。
三好
D2Cブランドにとって、クリエイティブはブランドの世界観を表現し、お客様との関係性を構築するための重要な要素です。自分たちの手でクリエイティブをコントロールすることは、ブランドを成長させる上で大きなメリットがあります。自身の経験を通じて、外部に頼るべきところは頼りながらも、自らの頭と手でできることを増やしていく努力と工夫がとても大切だと感じているので、同じような課題をお持ちの方に参考になれば幸いです。
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