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イベントレポート<MaとChiの寺子屋 vol.8> 「現地参加者の視点で読み解く、カンヌライオンズ2026~世界のクリエイティビティの最前線~」|ヤマハ 加藤氏・サイバーエージェント 羽片氏が語る「ブランドと経営の現在地」

加藤剛士、羽片一人

投稿日2026年09月17日
更新日2026年09月17日

2026年9月9日(水)、武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスの共創スペース「Co-Creation Space Ma」にて、クリエイティブやデザインに関わる人々が集うトーク&ネットワーキングイベント「MaとChiの寺子屋」の第8回が開催されました。

本レポートでは、ヤマハ株式会社の加藤剛士氏と、株式会社サイバーエージェントの羽片一人氏をお迎えして行われたセッション「現地参加者の視点で読み解く、カンヌライオンズ2026~世界のクリエイティビティの最前線~」の模様をお届けします。

世界最大のクリエイティビティの祭典「カンヌライオンズ」に現地参加し、最先端の潮流を肌で感じてきたお二人が、広告主とエージェンシーという異なる立場から、世界のクリエイティビティの現在地と未来について熱い議論を交わしました。

MaとChiの寺子屋”とは?

「MaとChiの寺子屋」は、クリエイティブやデザインの分野に関わる学生・社会人が、誰でも気軽に参加し、学びあい、交流できる場を提供することを目的として、株式会社ヒューリズムの「オプサー」と武蔵野美術大学の2つの団体が共同主催となって運営するトーク&ネットワーキングイベントです。 
本イベントの中心地となるのは、共創を生み出す場として2023年6月にオープンした武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスの「Co-Creation Space Ma」です。
この「Ma」という空間には、大学と社会の『間』の空間という意味に加えて、武蔵野美術大学が教育理念として持つ「真に人間的自由」という意味での『真』、自信の知性や感性を磨くという意味での『磨』といった意味が込められています。
社会と大学のすき間のような空間「Ma」で、多様な人々による知見や知性といった「知(Chi)」が交差し、磨かれ、一つの町(MaChi)のような一体感を生み出す場となるよう、2つの団体が産学のすき間を超えて共創し、本イベントを運営しています。



スピーカー

加藤 剛士 氏
ヤマハ株式会社 / コーポレート・ブランディング部 リーダー

2003年ヤマハ株式会社入社。本社商品事業部と欧州現地法人(ドイツ)で商品企画とグローバルマーケティングを担当後、2019年に発表されたブランドプロミス「Make Waves」の立ち上げを経て、コーポレートマーケティング部門に異動し現職。
グローバルクリエイティブディレクターとして楽器から音響まで幅広い事業領域をもつコーポレート・ブランディングと広告宣伝を主導。
受賞歴:2025年Clio Music 金賞、2024.2025NY Festival銅賞、2025Spotify Hits Japanグランプリ、2024.2026カンヌライオンズショートリスト等

羽片 一人 氏
株式会社サイバーエージェント / クリエイティブ新規事業本部 統括

2009年サイバーエージェント新卒入社、インターネット広告事業本部に所属。
2010年株式会社CABeat代表取締役社長に就任し、5年間会社経営に携わる。
2015年からインターネット広告事業本部のメディア売上責任者を経て、現在はクリエイティブ新規事業本部責任者​。

1. オープニング:世界最大のクリエイティビティの祭典「カンヌライオンズ」とは?

セッションは、進行を務めるオプサーのモデレーターによる「カンヌライオンズ」の解説からスタートしました。

1954年に広告映像祭としてスタートしたカンヌライオンズは、70年以上の歴史を持ちます。

時代とともにマーケティングやプロモーションのあり方が進化するにつれ、CM以外の領域にも拡大し、現在では30を超える部門で世界のクリエイティビティが表彰されています。

かつては「広告会社の集まり」という印象もありましたが、今ではAppleやP&Gといった事業会社、通信会社、コンサルティングファームなども多数参加し、「ビジネスにおける世界のクリエイティビティの祭典」へと変貌を遂げています。

(左)サイバーエージェント 羽片氏・(右)ヤマハ 加藤氏
(左)サイバーエージェント 羽片氏・(右)ヤマハ 加藤氏

2. ブランドとエージェンシー、それぞれのカンヌとの向き合い方

続いて、登壇するお二人がそれぞれの立場から、どのようにカンヌと関わっているのかが語られました。

ヤマハの加藤氏は、ブランドやマーケティングの組織が目指すべき「北極星(ノーススター)」としてカンヌライオンズを位置づけています。

「2019年からエントリーを始め、今年はカンヌでも伝統的で権威性の高い部門の一つである『フィルムクラフト』部門でショートリストに入りました。『You Are The Instrument』という、楽器を奏でる音をあえて消し、奏者の想いや歴史に焦点を当てた作品です。グローバルで5800万回再生を記録しました。こうした受賞実績は、社内、特に経営層に対してブランディングの重要性を証明する『通信簿』として機能しています」と、ブランドオーナーならではの視点を語りました。

一方、サイバーエージェントの羽片氏は、エージェンシーの立場として「カンヌをクライアントとご一緒するクリエイティブの健康診断として活用している」と明かします。


「私たちはエージェンシーとして賞もしっかりと狙いながらも、それだけに固執することなく、クライアントの事業責任者や経営者をお連れして、世界の最前線を共に視察しています。今自分たちはどのあたりにいるのかを世界と自社と見比べて健康診断をするイメージです。カンヌライオンズ開催期間中は、現地に人が溢れかえっていることもあり、飲食店なども予約で埋まってしまい、食事事情もままならないほど賑わいます。そのため、国際的なカンファレンスにもかかわらず、企業の垣根を超えてゆっくりと話しあえるような場所がありません。

そこで、私たちは現地にカフェを貸し切り、おにぎりや納豆、味噌汁などの和食を用意して、クライアントとじっくり議論できる場所の提供を今年初めて挑戦しました。」と、独自の泥臭い取り組みで会場を沸かせました。

3. 世界の潮流:AI時代の到来と、問われる「ブランドのコア」

コロナ禍を経て、世界のクリエイティビティはどのような現在地にあるのでしょうか。

羽片氏は大きな流れとして、「パーパス(社会実装)の波が来て、その押し付けに対する疲れからユーモアが求められる時代があり、今年はさらに『Creative Brand Lion』のような、企業の組織論やインプットを評価する部門が新設されました。クリエイティビティのバトンが、エージェンシーからブランドオーナーへと渡り始めているのを感じます」と分析します。

そして、避けて通れないのが「AI」の存在です。

加藤氏は、今年のカンヌでの議論を踏まえ、「AIはあくまで『加速装置』。AIを活用すれば表現の『平均点』は簡単に上がります。だからこそ、AIが進化すればするほど、事業会社が持つ『ブランドのコア』や『何を選択するか』という偏差値が問われるようになります。真ん中の仕事は淘汰されるでしょう」と警鐘を鳴らしました。

羽片氏もこれに同意し、「AIを使いこなして平均点を取る層と、AIを規格外に使って120点を出す『アーティスト』のような層に二極化し、中途半端なものは残らなくなる」と予測しました。

4. なぜ今、経営層がクリエイティビティを重視するのか?

今年のカンヌで加藤氏が最も驚いたのは、セッションの登壇者にCEOやCMOが急増し、クリエイティブファーストから「戦略ファースト」への転換が鮮明になったことだと言います。

「これまでは『どれだけ美しく、鋭い視座のクリエイティブか』が中心でしたが、カンヌは今やクリエイティブ表現の場から、経営者たちが積極的に自分たちの戦略が正しいかを確認する『通信簿』であり、価値交換を始める場所へと変わりました。事業会社にとって、広告宣伝などのプロモーションとしてのクリエイティブが先行すると、どうしても経営の主軸から外れてしまいます。しかし『まず戦略があり、ブランドのコア価値があり、いくら素晴らしい戦略も伝わらなければ意味がない。それを正しく伝えるためにクリエイティビティが存在する』というように、アプローチの『順序』が変わってきたのです」と、クリエイティビティが経営に直結するプロセスを力説しました。

これについて羽片氏は、「これからの日本では人口減少などでモノが売れなくなる中、企業が選ばれる理由、つまり『価値の創造』はメディアの力だけでは作れません。事業側がクリエイティビティを持ち、どう創意工夫するかに競争優位性がかかっているからこそ、経営層が本気になり始めているのです」と解説しました。

「クリエイティビティ=広告」ではなく、「経営=クリエイティビティ」という本質的な理解が、世界中で急速に進んでいることが浮き彫りになりました。

MaとChiの寺子屋の会場の様子
MaとChiの寺子屋の会場の様子

5. 印象に残った事例から見る、ビジネスモデルの変革と「トラスト(信頼)」

お二人がカンヌ2026で特に印象に残った事例が紹介されました。

羽片氏が挙げたのは、オーストラリアの損害保険会社Suncorpによる「Haven」というキャンペーンと、フランスの保険会社AXAの「Three Words」というキャンペーンです。

引用:Suncorp公式サイトより

引用:Clio Awards公式サイトより

「SuncorpのHavenは、本来、事故が起きたほうが儲かるはずの損害保険会社が主体となって、山火事の被害を事前にシミュレーションし、ホームセンターと提携して、火事の被害を最小限にできるよう家の補強を促す施策です。また、AXAは、災害は物理的なものではない、とその解釈を広げました。具体的には、『DV(ドメスティックバイオレンス)』を家の中で起きる災害と考え、保証対象に組み込むために、契約書に「and Domestic Violence」というThree Wordsを追加し、この被害を保険で補償できるようにしました。クリエイティビティの力でビジネスモデル自体を拡張し、社会課題を解決しながら売上も上げる。このアプローチには非常にテンションが上がりました」と熱く語りました。

続いて、加藤氏は、製薬会社イーライリリーのセッションが印象に残ったと語ります。

「昨今は広告の力でかっこよく見せる手法が溢れていますが、本当に命に関わる薬の領域では、そうしたクールさはノイズになります。彼らは『本当に必要な人のために、あえて痩せ薬を売らない』という選択をしました。こうした企業の姿勢と行動がAI時代において最大の財産である『トラスト(信頼)』を生むのです。139年の歴史を持つヤマハにとっても、愚直にやり続ける価値を再確認させられました」と語りました。

さらに、Appleのアクセシビリティをテーマにした広告FILM「I’m Not Remarkable」を挙げ、シリアスになりがちなテーマをコミカルに描きつつ、自社プロダクトの機能を徹底的にアピールする洗練された手腕を称賛しました。

引用:Apple公式サイトより

6. 未来への提言:これからの企業と個人に求められるもの

セッションの最後に、今後の企業と個人に求められるクリエイティビティについてメッセージが送られました。

加藤氏は、企業と個人の両面から提言します。

企業に求められるのは「選択するクリエイティビティ」。Aに行くか、Bに行くか、あるいはどちらにも行かないのかという「選択」自体が企業の根幹となり、その決断をいかにクリエイティブに落とし込むかが問われると指摘しました。

一方、個人(特に意思決定を行うマーケターや企画者)には「自分自身のレンズ(視点)を持つこと」の重要性を説きます。

「ターゲットや周りがどう思うかを気にするだけの手法はもはや価値を失いつつあります。自分自身がこの事象をどう見るのか、という強い視点を持ってクリエイティブに向き合うことが不可欠です」と語りました。

羽片氏は、ブランド側もエージェンシー側も「1人の生活者としてフラットに物事を見続けること」を強調しました。

「メディア論が崩壊した今、生活者を単なる『塊(マス)』として捉える前提は崩壊しています。だからこそ、1人の人間として普通に生きて得られる『一次情報』の価値が相当高いのです」。さらに、「クリエイティビティと聞くと教養が高く難しそうに聞こえますが、アイデアは既存のもの同士の組み合わせに過ぎません。難しく考えすぎず、生活者としての素直な感覚から出したアイデアが『会心の一撃』になることもある」と、日常の感覚を武器にするよう力強くエールを送りました。

7. オプサー×武蔵野美術大学 ラップアップセッション

メインセッションの熱冷めやらぬ中、武蔵野美術大学の西氏と河野氏、オプサーを運営するヒューリズム代表の多湖氏によるラップアップが行われました。

武蔵野美術大学の西氏・河野氏からは、まず本イベントの会場である市ヶ谷キャンパスについて、「郊外(鷹の台)で造形に集中するキャンパスとは異なり、社会に対して実験的な試みを行う場」として設立された背景が語られました。

さらに話題は「AI時代の美大の価値」へと深まりました。

「数年前、AIの台頭に対して当時の学長が『使い倒してほしいが、使い方は間違えないでほしい』とメッセージを出しました。現場の教員にはAIにクリエイティブが奪われるという危機感もありましたが、今は逆に『大きなチャンス』だと捉えています」と語ります。

AIにできない思考力を徹底的に鍛えること。そもそもAIに『何を頼むべきか』『何を聞くべきか』を考える力は、美術やデザインを通して養うことができます。一見すると効率化とは無縁の『無駄の塊』のように見える美大のキャンパス環境こそが、実はAI時代に勝つための教育インフラなのだと気づきました」と、アート教育の本質的な価値について力説しました。

また、オプサーの多湖は、登壇前の加藤氏・羽片氏との会話を振り返り、「これまでマーケティングはサイエンス(定量化)に寄っていましたが、AIが普及して全員の平均点(偏差値)が上がった今、差別化のために再び『アート』や『ストーリーテリング』の重要性が増し、クリエイティブの原点に揺り戻しが起きていると感じる」と、語ります。

最後に、マッチングプラットフォーム「オプサー」の理念を交えて、セッションを総括しました。

「単に安くクリエイティブを発注するのではなく、今日お話しいただいたような本質的なクリエイティビティを持つ人材と企業が、適切にタッグを組める生態系を作ることが我々の使命です。この『MaとChiの寺子屋』を通じて、AI時代に必要な知識と熱量が流通し、新たな共創が生まれる場にしていきたい」と締めくくりました。

土砂降りの雨という悪天候の中での開催でしたが、会場は終始、世界の最前線を肌で感じる興奮と熱気に包まれていました。

8. 今後のご案内

メインセッションにご登壇いただいたスピーカーの皆様、そして会場へお越しいただいた参加者の皆様のご協力のおかげで、今回も盛況のうちに幕を閉じることができました。

セッション後の懇親会では、登壇者と参加者が直接語り合い、新たなネットワークが生まれる有意義な時間となりました。

「MaとChiの寺子屋」は、今後もクリエイティビティを磨き、刺激し合える場を提供していきます。

次回の開催情報やイベントの詳細につきましては、Peatixイベントページよりご案内しますので、ぜひフォローをお願いいたします。

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Co-Creation Space Mahttps://ma.musabi.ac.jp/Co-Creation Space Ma

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