
武蔵野美術大学×インテル×オプサーが創出! クリエイターと社会をつなぐ新時代の学びの場「MaとChiの寺子屋」始動〜共同主催〜武蔵野美術大学 河野通義氏
河野 通義
「Create Design Cycle~デザインで社会を循環させる~」をコンセプトとした、クリエイターと企業を繋ぐビジネスマッチングサービス「opusr(オプサー)」を運営するヒューリズムは、2024年9月よりクリエイティビティやデザイン分野における知の交換や人々の交流を創出する機会として、大学生から社会人を対象としたイベント「MaとChiの寺子屋」を運営しています。
MaとChiの寺子屋とは?(2025年2月19日(水)19時~:第二回 開催)
https://opusr250219.peatix.com/
また、本イベントは、大学と社会をつなぐ新しいカタチのコワーキングスペースとして武蔵野美術⼤学が新宿区の市ヶ谷キャンパスで運営している「Co-Creation Space Ma」、および、インテル株式会社が「クリエイターの新たな挑戦を支援する」を掲げて実施している「インテル Blue Carpet Project」と協働することで実現しました。
そこで、今回は共同主催者である武蔵野美術大学にて連携共創チームのリーダーを務める河野通義氏に、本イベントの開催に至るまでの背景や、本イベントを通じて実現していきたいことについてお伺いしました。
プロフィール

武蔵野美術大学大学企画グループ連携共創チーム
チームリーダー
河野 通義
武蔵野美術大学大学院修了後、武蔵野美術大学美術館・図書館にて主に貴重書・書籍に関する展覧会を企画・実施。その後、都心型キャンパスおよび新学部・大学院設置に携わり、現在は大学の社会連携活動の推進や研究支援活動の支援等を行う部署を担当
展覧会「博物図譜とデジタルアーカイブ」プロジェクトで得たこと
ーあらためて、河野さんのこれまでのご経歴について教えてください。
私は武蔵野美術大学の大学院修了後、造形学部芸術文化学科研究室で助手を経て、大学にある美術館(武蔵野美術大学美術館・図書館)で展覧会を企画するといったキュレーター(学芸員)のような仕事をしていました。私自身キュレーターの仕事にもともと関心が強かったので、大学院でもそういった領域について自分なりに研究を深めていました。
ー大学美術館としてのキュレーターというと、具体的にはどのようなお仕事になるのでしょうか。
私が担当した展覧会の中でも印象的で転機となっているのは、「博物図譜とデジタルアーカイブ」展(2010年〜2012年)のプロジェクトです。

博物図譜とデジタルアーカイブ V | 美術館https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/12766/
「博物図譜」というのは、博物学に基づいて制作された写生や模写のことを指します。大航海時代と呼ばれる15世紀から17世紀、18世紀頃まで、情報を記録する媒体、すなわちメディアと呼べるものが本しか存在しなかった時代には、植物図鑑や航海日誌、解剖図といった分野の様々な情報が書籍化され、保存されてきました。
一般的な書籍や装丁の展覧会であれば、書籍の開いたページが見られる展示になりますが、そういった展示方法では結局、触れることのできる情報はほんの一部(開かれたページ)に限定されてしまいます。当時、この貴重な記録を世の中に発信していくにあたり、社会にどのように伝えていくのが効果的なのだろうかと試行錯誤していく中で、本学の造形学部視覚伝達デザイン学科の寺山教授と卒業生数名という少人数でこの博物図譜をデジタルアーカイブ化し、それを展覧会のコンテンツとして一般の方に公開するという、本学の美術館では初の試みに挑戦しました。
ー大学が主催する展覧会でデジタルアーカイブ公開などの新しい取り組みを推進するには様々な壁がありそうですね。
私が学内の展覧会を担当していた2010年時点で、本学の美術館・図書館は「文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」を活用し、作家の荒俣宏氏が旧蔵していた博物図譜コレクションを所蔵しており、デジタルアーカイブ化も進行していました。つまり、博物図譜やスキャンデータを活用した展覧会を開催するための素材は整っている状況でした。
しかし、課題は先ほど述べた社会への伝え方です。ただ書籍そのものやスキャンデータを展示するだけでは、情報は限定的な上に通常の展覧手法になってしまいます。新しい伝え方を模索する中、この頃、タッチパネル式ディスプレイの性能が非常に向上していたため、プロジェクト初期の展覧会では大型タッチパネルを活用し、本物の書籍と、中身が見られるタッチパネルを展示することでスタートしました。
プロジェクトが進む中、2012年3月にこれまでの解像度とは全く違う高精細ディスプレイを搭載した第3世代のiPadが発売されました。高精細ディスプレイでの閲覧を展覧会場で実現する仕組みを実験的に取り組んだ後、その可能性を感じたため、プロジェクトチームで検討を行い、アプリ化して全世界に配布するという企画が生まれました。
しかし、ここで大きく二つの課題が生じました。一つは、デジタルデータを閲覧できるアプリケーション開発およびサーバー技術に精通しているメンバーが揃っているわけではなかったので、完全に手探りの中で実現しなければならなかった点です。もう一つは、大学の情報資産をアプリ化して社会に公開するということに対する議論です。
一つ目の課題については、無いものは無いので、とにかく自分たちで行動し、学習しながら仲間も増やして乗り越えるしかありませんでした。ただ、当時は本学を卒業したての若いメンバーがいる中で、案外、新しいことでも行動さえ起こせば、自分たちだけで新しいモノづくりってできるものだな、という達成感は人生の中でも大きな経験になりました。
二つ目の課題については、批判的な意見は完全にはなくならない中でアプリ開発を進めたのですが、結果として、テレビの報道で本活動が取り上げられ注目を集めたことや、造本装幀コンクールの文部科学大臣賞や全国カタログ・ポスター展の経済産業大臣賞を頂くといった実績を出したため、学内の意識もポジティブに変化していきました。
美大が直面している課題と、求められる役割
ーそうした展覧会の企画や新規プロジェクトの推進から、現在の連携共創チームの活動や「Co-Creation Space Ma」の運営には、どのように繋がっていったのでしょうか。

デジタルアーカイブプロジェクトは、大学の持つ資産や魅力を世の中にどう伝えていくかという視点での活動だったといえます。
しかし、2015年に入試や募集広報の領域に変わり、新たに学生を迎え入れるための活動に取り組むことになりました。
私自身が受験生だった頃は美大といえば非常に入試倍率も高く、何年も浪人してでも入学したいと考える受験生も非常に多い時代でしたが、近年は人口減少や少子化といった環境要因の影響を除いても、美大を志す若者が社会全体で減っているという危機感があります。
では、なぜ美大を志す若者が減っているのか、現役の高校生やその保護者の方たちに話を聞くと「そもそも入るのが難しい(浪人できない)」「美大って絵を描いているだけのイメージ」「美大を卒業した後のイメージが湧かない」といった印象を持たれていることがわかりました。
しかし、実際は美大は専門的なアートやグラフィックデザイン・プロダクトデザインといった領域に留まらず、昨今は広義なデザインなどと言われるビジネス分野におけるデザインの活用についても講義やプログラムを拡充していますし、美大出身といえばアーティスト・デザイナーになるのが当たり前ということもなく、一般企業の総合職や公務員として就職する学生も多くいます。
このように、入学が難しい割に社会に出るときの選択肢が少ないという世間の印象と、実際は多様な教育に溢れた教育とキャリアパスがあるという実績、世間の印象と現実の間にある大きなギャップを埋めるためにも、もっと武蔵野美術大学や美大、アート・デザインのことを知ってもらいたい、武蔵野美術大学と社会との接点を増やしていきたいという想いもあって、2017年から本学の新学科・都心キャンパスの開設プロジェクトに関わり、現在に至るという流れです。
ーその中で、河野さんが「外部(社会)とのつながり」を重視するのはなぜでしょうか。大学として、高校生の志願者数を増やすことを目的とする場合、就職実績や偏差値といった観点が重視されそうにも思います。
まず、就職実績については先ほども述べたように、世間で思われているほど美大出身だからといってみんながデザイナーやアーティスト、制作会社に勤めるといった画一的なキャリアパスになっているわけではありません。
むしろ、アートやデザインといった幅広い分野に触れているからこそ、多様な感性を育み、様々な産業や分野で活躍する卒業生が増えています。
偏差値については美大の入試形態が独特であることは事実ですので一概には言えませんが、少なくとも、武蔵野美術大学という場所がアートやデザインといった特定の領域だけに限定されず、学生や卒業生がビジネスや行政、様々な分野で将来的に活躍できるような機会や選択肢を提案していくことで、大学としての魅力は高まっていくと考えています。
そのための拠点として存在しているのが「Co-Creation Space Ma」になるわけですが、Maをオープンしたときのリリースには”コワーキングスペース”と明確に打ち出していたものの、コロナ禍を経た現在、もしかしたらコワーキングスペースという名称にこだわる必要はないかもしれません。
我々の真の目的は「卒業生や、武蔵野美術大学だけに限定されない様々なクリエイターが集まり、出会う機会を創出する」ことです。武蔵野美術大学の学生、卒業生だけでなく、社会で活躍する他分野のクリエイターやビジネスパーソン、企業との接点が生まれるようになれば、武蔵野美術大学の卒業生の活躍幅が広がっていくということだけでなく、外部の知見を武蔵野美術大学の中に取り入れ、さらに魅力的な場や機会の創出に繋がっていくという好循環が生まれることが期待できます。
したがって、今回、オプサーさんやインテルBCPの方々と今回、MaとChiの寺子屋を共同主催していこうと決めたことも、学生や卒業生に対する選択肢や機会の提示といった活動の1つであると考えています。
MaとChiの寺子屋の意義と展望
ー今回、2024年9月の第一回「MaとChiの寺子屋」を実際に開催してみて、所感や手応え、今後の期待についてどのようにお感じになられたでしょうか。

まず、そもそも今回の企画構想をお聞きした時に、率直にヒューリズムの方々やオプサーのサービスに関わる方、インテルBCPの皆さんの知見を吸収したいと感じたので、やってみて良かったと感じています。
常々感じますが、大学機関は、キャンパスや書籍、知識や情報といった多くの資産を保有しているのですが、ハードウェアが豊富な割に、それを世の中に伝えていくソフトウェアの機能が不足しているケースが多いと言えます。
その原因は冒頭に申し上げた社会との繋がりの希薄さや、大学という特殊な環境における常識が世間の常識とずれている可能性など、様々な要素が考えられます。ただ、個人的には、デジタルアーカイブプロジェクトの経験からも感じていますが、伝える努力や工夫、伝えるための人と人のネットワークの獲得にもっと積極的になる必要があるように思います。
MaとChiの寺子屋でいえば、セッションテーマや登壇者を筆頭に、イベントの運営管理といったオペレーションまで、武蔵野美術大学だけでは実現できないことを、オプサーやインテルBCPの皆さんとの協働だからこそ実現できることが多くあると感じています。
実際、第一回はゲストに日本デザイン団体協議会(JAPAN DESIGN ORGANIZATIONS AS ONE、略称:DOO、旧略称:D-8)の参加団体から3つの団体の長として、永井一史さん、太刀川英輔さん、信藤洋二さんととても素晴らしい方々にお越しいただき、初開催にも関わらず課題は見当たらないと思えるような会になったと感じています。
そのため、課題というよりは、さらなる伸び代というところで、MaとChiの寺子屋で武蔵野美術大学の卒業生がゲスト側で登場してくれたら嬉しいですし、聞き手として参加していた方が、何かのきっかけに話し手になっているとか、例えばスピーカーを公募するといった座組みも面白いかもしれません。
他の観点で言えば、イベントの延長に新たな教育プログラムが誕生するなどのさらなる展開も期待できると思います。大学はMaとChiの寺子屋のChi(知)の部分、知識や情報を体系化していくのが得意な組織ですので、そこは共同主催である3団体のそれぞれの強みを発揮して、さらに良い時間と空間をつくっていきたいですね。
お知らせ
第二回「MaとChiの寺子屋」25. 2/19(水)19:00~開催

詳細の確認やお申し込みは以下のPeatixイベント申し込みページよりお願いします。
この記事をシェアする