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イベントレポート:Design Node Vol.1 「AI時代、デザインはどう再配置される? ~デザインという行為の再定義〜」

長谷川恭久、小木曽槙一、多湖大師

投稿日2026年05月29日
更新日2026年05月29日

2026年5月15日(金)、武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスの共創スペース「Co-Creation Space Ma」にて、オプサー(株式会社ヒューリズム)が主催する新たなトークイベント「Design Node」の第1回が開催されました。

本レポートでは、フロントランナーとしてAIと実務で向き合い続けている二人のデザイナー、長谷川恭久氏と小木曽槙一氏を迎え、「デザインという行為の再定義」をテーマに繰り広げられた、本質的かつ刺激的な議論の模様をお届けします。

AIによる技術革新が加速し、既存のデザインプロセスが根底から揺らぎ始めている今、効率化やツールの話に留まらず、デザイナーの役割がどのように「再配置」されるべきなのか。
正解のない問いに対し、自らの足元をアンラーニング(学習棄却)しながら進むプロフェッショナルたちの思考に迫ります。

Design Nodeとは?

「Design Node」は、クリエイターと企業のビジネスマッチングサービスを運営する「オプサー(opusr)」が、適正な知の循環をミッションに掲げ、単独主催する新たなトークセッションシリーズです。

昨今のAIに関する情報の氾濫に対し、単なる流行や効率化の議論ではなく、現場の試行錯誤から生まれる「本質的な問い」を共有し、参加者が自らの向き合い方を考えるきっかけを創出することを目指しています。

スピーカー

長谷川 恭久 氏
フリーランスデザイナー

デザインやリサーチ、フロントエンド開発の体制が「回る」ようにするための設計と実行を、チームの中に入って一緒にやっています。
コンサルのように外から助言するのではなく、AI時代にデザインシステムや開発プロセスがどう変わるべきかを技術検証しながら提案し、デザインレビューや組織横断ワークショップのファシリテーションをしながら、同時にその活動が事業成果に届くための仕組みも一緒に作っていくという働き方をしています。

小木曽 槙一 氏
株式会社Lumilinks  デザイナー

受託制作会社でデザイナー・エンジニアとして勤務後、さくらインターネットでプロダクト開発に携わる。
2020年にSmartHRへ入社し、プロダクトデザイナーとしてデザインシステムやプロダクト開発を担当。
生成AIベンチャー、0→1スタートアップでのデザイナー経験を経て、現在はプロダクトデザインを軸に、AI活用コンサルティングや組織支援、コミュニティ事業を展開している。

AIによって「なくなった仕事」と「変わるモデル」:三角形の崩壊

セッションの幕開け、長谷川氏は「AIで仕事がなくなる」という言説のさらに奥底にある、私たちの働き方を規定してきた「社会システム」の変容について語り始めました。

長谷川恭久氏
長谷川恭久氏

「プロダクトマネジメントトライアングル」の終焉

2010年代、デジタルプロダクト開発の現場では、ビジネス、テクノロジー、ユーザーの3要素を中心とした「プロダクトマネジメントトライアングル」がありました。
企業は、この要素に基づいて人材配置を行い、組織モデルを構築しており、「テクノロジーとユーザーの間」と「ユーザーとビジネスの間」をつなぐ役割としてデザイナーは活躍していました。
また、教育機関はこの枠組みの中で活躍できるデザイナーを育成し、排出してきたわけです。

しかし、長谷川氏はこの前提そのものに疑問を投げかけます。

「私たちが今日まで『UXデザイナー』や『UIデザイナー』と名乗ってきたのは、このトライアングルモデルの中でデザイナーという職能を定義し、活躍するための『都合の良い肩書き』に過ぎませんでした。今起きているのは、特定のスキルがAIに奪われるということではなく、この三位一体の役割分担で成り立っていた開発プロセスや組織構造そのものが維持できなくなっている、という現象なのです

日本固有の構造が生んだ「Webディレクター」という役割

議論は、日本のクリエイティブ業界における「職種」の成り立ちという、より構造的な話へと深化しました。
その象徴的な例として挙げられたのが、日本独特の職種である「Webディレクター」です。

「海外ではあまり馴染みのない『Webディレクター』という職種がなぜ日本でこれほど普及したのか。それは、かつて広告代理店が強大な影響力を持ち、彼らを経由して仕事が流れるという社会構造があったから、という仮説があります。デザイナーがいきなりクライアントの元へ行くのが難しかった時代、その窓口としてディレクターという役割を置くことが、構造上非常に都合が良かった。つまり、職種とは本人の希望以上に、その時代の社会システムによって要請されるものなのです」

かつてフラッシュディレクターやWebデザイナーが細分化されていったように、現代のUX/UIデザイナーという定義もまた、現在のシステムが維持されることを前提とした「商売上の肩書き」でしかありません。

長谷川氏と小木曽氏は、AIの登場によってこの「システムの都合」が通用しなくなる未来を予見しています。

左:小木曽槙一氏 / 右:長谷川恭久氏
左:小木曽槙一氏 / 右:長谷川恭久氏

「システマイズ」への盲信と人間的な判断の欠落

組織論の観点から長谷川氏が警鐘を鳴らしたのが、テック企業に蔓延する「システマイズ万能主義」です。

「物事をすべてシステマイズすれば早く進むと信じている人が多すぎますが、人間はロボットではありません。特に大きな組織になればなるほど、人の判断は複雑でダイナミックなニュアンスに満ち溢れています。それを無視して『AIによるスコアが100点だからこれが正解だ』と判断してしまうのは、明文化されない文脈があることを理解していない行為です」 

AIによる効率化という「表面的なスピードアップ」に組織全体が酔いしれる中で、本来デザイナーが担っていた「複雑な文脈(コンテキスト)の中でのダイナミックな判断」が、組織から削ぎ落とされている、と指摘します。 

この構造的な欠落こそが、AI時代のデザイン組織が直面している真の課題であることが浮き彫りとなりました。

デザインプロセスの変容:分業の「壁」を壊し、プロダクト本来の目的へ立ち返る

続くテーマでは、AIが導入されることで、従来の「制作プロセス」がどのように再編されるべきかが議論されました。
ここでの核心は、ツール操作の効率化ではなく、デザイナーの「立ち位置」の変化です。

「投げる・渡す・受ける」という言葉に潜む分業の弊害

長谷川氏は、現場で頻繁に使われる「(エンジニアに)投げる」「(PMから)受ける」といった言葉に、現代のプロセスが抱える問題が象徴されている、と指摘します。

 「これまでは自分の守備範囲を『デザインファイルを作るまで』と定義し、そこから先は他者にパスを出すという、完全な分業体制(アジャイルやスクラムなどと謳っていても実態は持ち場が決まっている状態)が続いてきました。しかし、この『守備範囲を誇示する』ようなプロセスこそが、プロダクトの進化を妨げる壁になっています。AI時代には、こうした境界線はもはや維持できません」と長谷川氏は話します。

「”デザイン作業”を終わらせる」ことが目的になっていないか

議論は、組織構造が個人のマインドセットに与える影響へと及びました。

「多くのデザイナーが、目の前にあるデザイン(多くはモックアップ画面)を完成させるというタスクを最優先にしてしまっています。それは個人のスキルの問題ではなく、そうせざるを得ない組織構造の問題です。しかし、本来の問いは『あなたは本当にこのプロダクトを良くしたいと思っているのか?』という極めてシンプルな一点に集約されるはずです。分業化が進みすぎた結果、この本質的なマインドが薄れ、単なる『画面を作るオペレーター』になってしまっている現状があります」と長谷川氏は指摘します。

「ハーネス」がもたらす逆転の発想:開発側からのプロトタイピング

小木曽槙一氏
小木曽槙一氏

小木曽氏が実践する「デザインハーネス」の試みも、この「オペレーターからの脱却」を目的としたプロセス変革の一環です。

「これまでの多くの開発プロセスは、要件定義やUIデザインから始まり、開発へ流れる一方通行なプロセスでしたが、今はそのベクトルが逆行し始めています。開発側からプロトタイピングを行い、コードベースでUIが立ち上がっていく。この『バックワード・フロー(逆行する流れ)』の中で、デザイナーがどこに関与すべきかが問われています」 

小木曽氏が述べた「人ができるだけ介在しない仕組み」とは、決して人間を排除することではなく、「パターン化できる定型業務から人間を徹底的に排除し、余った時間をプロダクトの意思決定や高次のコミュニケーションに充てる」ための戦略的なプロセス設計です。 

「これまではデザイナーに依頼していたタスクを、AIエージェントによる自動的なフィードバックループ(リポジトリ上などで自律的に動く工場(ファクトリー))に置き換える。それによって定型的な作業はAIに任せ、AIにはできないプロトタイピングや、判断・意思決定を行い、生産性を上げつつも価値向上を目指せると、小木曽氏は解説しています。

エンジニアドリブンな自動化の罠と「判断の引力」

しかし、こうした「自動化」の流れに対し、長谷川氏はデザイナー特有の視点から重要な補足を加えました。
現在進められている多くの「AIによるデザインシステム化」が、極めて「エンジニアドリブン」であることへの危惧です。

特定のルールセットに基づき、判断ツリーのように『AならばB』とUIを自動生成する。一見すると効率的ですが、これは極めて危険な考え方です。デザイナーの判断は、そんな単純な論理構造ではありません。ステークホルダーの言葉をどう解釈するか、急変するプロダクト戦略にどう即応するか、現場のエンジニアの空気感にどう応えるか。デザインとは、こうしたビジネス・技術・人間の感情といった様々な要素が『引力』のように複雑に引き合っている中心点で行われる、とてつもなくダイナミックな行為なのです」と長谷川氏は指摘します。

この「文脈(コンテキスト)」を抜きにして、ルールだけでUIを量産するシステムは、AIのポテンシャルを引き出しにくいと、小木曽氏も断言します。

 「デザイナーの役割は、画面を構成することから、この『判断の重みをコントロールするコンテキストの設計』へとシフトしていく。AIが提示する100点のスコアに対し、あえて人間的なニュアンスや文脈を滑り込ませるブリッジ能力こそが、これからのデザイナーの主戦場になるはずです」

デザイン教育とジュニア層の課題:外れた「ラダー(梯子)」と、再定義される成長の基準

セッションの終盤、議論は次世代を担うデザイナーの教育、特に美大や専門学校、ジュニアクラスの育成へと及びました。
AIによって基礎的な制作プロセスがショートカット可能になった今、若手デザイナーが登るべき「成長の階段(ラダー)」はどう変化したのでしょうか。

株式会社ヒューリズム代表「オプサー」多湖大師
株式会社ヒューリズム代表「オプサー」多湖大師

従来型のプロセスを前提とした教育の限界

長谷川氏は、多くの人が感じている「成長のラダー(スキルアップしていくために積み上げるべき経験)が外された」という若手クリエイターや学生(特に美大生)が抱えがちな不安に対し、より構造的な見解を述べました。

「ラダーが外れたのではなく、これまでの『PM・エンジニア・デザイナー』という役割分担を前提とした成長基準そのものが変わってきています。もし今、教育機関でFigmaの使い方を教えたり、定型的なサービスデザインのワークショップを繰り返したりしているのだとしたら、それは従来型のプロセスに合わせた育成とも言えます。役割分担そのものが変わってきているわけですから、そうしたスキルだけではもはや価値を発揮できない世界になりつつあります。

これまでの教育は、組織という歯車の一部として機能するための「専門性」を育てるものでした。
しかし、AIがその「機能」を代替し始めた現在、教えられるべき内容と学ぶべき対象は、抜本的な見直しを迫られています。

ポートフォリオに価値がなくなる日

小木曽氏も、自身のメンターとしての経験から、ジュニアデザイナーが直面している厳しい現実を語りました。

「これまでのデザイナーを目指そうとすると、今後は相当に難しくなります。デザインツールでデザインを作り、それをポートフォリオに載せて就職活動をするという王道の教え方は、プロダクトデザインにおいてはもはや役に立たない、とまで言わざるを得ません。作業としてのデザインがAIに置き換わる中、単に『綺麗なモックアップが作れる』ことは、ジュニアの付加価値にはなり得ないのです」

「好奇心」という、AI時代に唯一機能するエンジン

では、ジュニア層は何を指針に成長すべきなのか。
ここで両氏が共通して挙げたキーワードが「好奇心」です。

小木曽氏は、知人の言葉を引用しながら、「これまでのデザイナーというポジションに固執せず、好奇心をもとに新しいことにチャレンジする姿勢」の重要性を強調しました。

「デジタルプロダクトに限定する必要はありません。椅子でも机でも、実際に手を動かして何かを作るという経験の中に身を置くこと。そして、AIという『最高の知性』を自分のための投資として使い倒し、既存の領域を超えてジャンプしてみる。そうした能動的な好奇心こそが、今のジュニア層に最も求められている資質です」

長谷川氏はこれに付け加え、「AIに染まる前に、判断の解像度を上げること」を推奨します。

「AIを使い始めるのは後でもいい。それよりも、組織の中で物事がどういう判断フローで決まっているのか、なぜそのデザインが良いとされたのか、その泥臭いプロセスを徹底的に理解すること。たとえ今はツールを自由に触れない環境にいたとしても、『判断の背景にある文脈』を整理する力を養っておけば、それは後にAIを使いこなす際の強力な武器になります

AIによって「制作」のハードルが下がったからこそ、デザイナーには「なぜそれを作るのか」という高次の問いに答える知性と、未知の領域を面白がる好奇心が、これまで以上に強く求められています。

左:多湖大師 / 中央:小木曽槙一氏 / 右:長谷川恭久氏
左:多湖大師 / 中央:小木曽槙一氏 / 右:長谷川恭久氏

教育の現場もまた、ツールの習得から「問いを立て、判断する力」の育成へとシフトしていくべきであるという強いメッセージで、このセッションは締めくくられました。

今後のご案内

ゲストスピーカーのお二人と、参加者の皆様のおかげで盛況に終わることができました。

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