
イベントレポート<MaとChiの寺子屋 vol.2> 「これからのクリエイティビティ」〜本質を見抜き、実行力で自ら未来を創造せよ〜
北村健、富永勇亮、諸石真吾、上野晶子、河野通義
25年2月19日(水)武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス7階にあるCo-Creation Space Maにて、オプサー・インテルBlue Carpet Project・武蔵野美術大学の共同主催イベント「MaとChiの寺子屋」が開催された。
“MaとChiの寺子屋”とは?
「MaとChiの寺子屋」は、クリエイティブやデザインの分野に関わる学生・社会人が、誰でも気軽に参加し、学びあい、交流できる場を提供することを目的として、株式会社ヒューリズムの「オプサー」とインテル株式会社の「インテル® Blue Carpet Project」、武蔵野美術大学の3つの団体が共同主催となって運営するトーク&ネットワーキングイベント。
2024年9月に開催された第1回から続く今回は、デジタル技術が普及し始めた1990年代後半から、クリエイティブ業界を牽引し続けてきた北村健氏と富永勇亮氏が登壇。変革の時代におけるクリエイティブの本質について、熱い議論が交わされた。本記事では、お二人の対話をもとに、これからのクリエイターが持つべき視点を掘り下げていく。
北村 健 氏
株式会社ベースメントファクトリープロダクション 代表取締役社長(CEO)
ミート株式会社 最高プロダクト責任者&ファウンダー(CPO & Founder)
1997年、株式会社ベースメントファクトリープロダクションを創業。ナショナルブランドの企業サイトを多数手掛け、業界特化型DX支援ツール「dcot(デコット)」や、AI顔認識検温システム「ネツミル」などの新規自社事業も展開。2022年、スピンアウト事業により設立したMEET株式会社にて、NFC技術を用いた次世代コミュニケーションサービスMEETを多数の企業に導入し、販売累計33万枚を突破、展開中。
富永 勇亮 氏
Whatever Co. CEO / エグゼクティブプロデューサー
広告、インスタレーション、映像、プロダクト、ファッション、TVなど多分野を横断するプロデューサー。カンヌライオンズ、SXSW、文化庁メディア芸術祭、The Webby Awardsなど受賞。
AID-DCC Inc.(COO)、dot by dot設立、PARTY NYプロデューサーを経て、2019年Whatever Co.を創業。
クリエーター同士のゆるやかなネットワークをつくる事がライフワーク。
Open Medical Lab(武部貴則と設立、取締役)、Lyric Speaker(COTODAMAへ出資)、BASSDRUM(社外取締役)、コワーキングビル「WHEREVER」運営。
1. 変化する時代と環境、変わらない本質
インターネットやスマートフォンの普及は、私たちの生活様式だけでなく、クリエイティブの表現方法やビジネスモデルにも大きな変革をもたらした。2000年代初頭、ウェブサイト制作が中心だったデジタルクリエイティブの領域は、現在では体験型コンテンツや空間デザインなど、多岐にわたる分野に拡大している。

「昔はフィルムを作ってくださいとか、アプリ作ってくださいという依頼だったのが、今は具体的なアクションプランはまだ未定だけど、こういうゴールを目指しているので、そこに並走してくれませんか?という依頼が増えてきた」と富永氏は語る。
クライアントのニーズが多様化し、単に「ものを作る」だけでなく、ビジネスコンサルティングから実装まで一貫したサービスを提供することが昨今のクリエイティブカンパニーには求められるようになった。
こうした変化の要因について、北村氏は「人のライフスタイルが変わると、マーケティングも当然変わっていく」と指摘する。テクノロジーの進化は、人々の価値観や行動様式を変化させ、それに伴い、企業が提供すべきサービスや体験も変化する。クリエイターは、常に時代の変化を敏感に察知し、柔軟に対応していく必要がある。
同時に、北村氏は「結局はアイデアを具現化して、それを実行するところまでがクリエイティビティだと思う」と語る。アイデアだけでは価値は生まれず、それを形にする実行力こそが重要なのだ。続けて、北村氏は「どんなビジネスも絶対に失敗しないだろうという、ある程度、人目に触れるところまでいくだろうという算段がつくまで徹底的なリサーチや事前検証を行い、きちんとビジネスの設計をします。その上で、設計を最後には実行すること。実行力こそ、クリエイティビティには重要なんじゃないかなと思います」と述べ、事業の本質を見抜き、確実な実行力で成果を出すことの重要性を強調した。
富永氏も「クリエイティビティっていうと、すごく抽象的に感じてしまうけれど、私は日本語の創意工夫と捉えると良いと思います」と述べる。「制約がたくさんある中で、創意工夫によって最終成果物を生み出すっていうところまでがクリエイティビティではないかな」と語る富永氏は、アイデアを形にするプロセス全体がクリエイティビティだと捉えている。
北村氏も「結局、肩書きだけクリエイターを名乗っていても、実行に結びついてない人のそれは何もやれてないということですから」と述べ、いかに優れたアイデアであっても、実行に移さなければ意味がないと指摘する。「私はできない理由や、ダメな理由を論理的に説明してくる人よりも、それをどのように乗り越えるのか、どうやったらできるのかということを伝えてくれる人たちと一緒に仕事がしたいですね。そういう人が優秀で、一流だと思います」と北村氏が語るように、クリエイターには、アイデアを出すだけでなく、それを実現するための具体的な道筋を示し、実行に移す力が求められる。
2. 変化の時代を生き抜く:クリエイターに求められるスキルとは
では、この変化の激しい現代において、クリエイターはどのようなスキルを身につけるべきなのだろうか。
富永氏は、「特定のスキルにこだわるのではなくて、常に柔軟に変わっていけることが大事」と述べる。技術の進化は早く、一つのスキルに固執することはリスクとなる。変化を恐れず、常に新しい知識や技術を習得し、自己アップデートを続けることが重要だ。

一方で、北村氏は「大切なのは『圧倒的な何か』と伝えています。つまり、自分の得意なジャンルでは、誰にも負けないレベルまで調べ抜いて、きちんとできるようになるまで学習・習得していることです」と述べ、専門分野における深い知識と技能の重要性を指摘する。こうした専門性が、実行力の礎となるのだろう。
変化に対応するための柔軟性と、専門性を深めること。この二つを両立させなければ、クリエイターは変化の激しい時代を生き抜くことは難しい。例えば、昨今でいえばAIなどの最新技術を使いこなすスキルも不可欠だろう。富永氏は、「最近はAIを使ってコーディングしてない人は、うちのエンジニアにはいない」と述べる。AIも、クリエイターの生産性を向上させ、新たな表現を生み出すための強力なツールとなる。
二人に共通しているのは、価値の源泉を見極める力の重要性だ。「私たちベースメントファクトリープロダクションが国内の大手広告主のWwb制作を一手に引き受けていた2000年代初頭は、Macromedia社のFlashという技術を用いることが主流だったのですが、それを深いレベルで理解し、ソフト開発者の想定を超えるような扱い方をできる制作会社はほとんどいませんでした。できる会社、できる人が限られているからこそ、そこには価値が生まれ、クライアントも対価を支払ってくれる。重要なのは、他の誰にも真似できないレベルの技術を持つ、アウトプットを出せるということです」と語る北村氏。
対して、富永氏は、「かつてWEB制作に大きな予算が投じられていた時代、私たちは世界で最も話題になるものを作ろうと競い合い、予算以上のブランド価値を生み出すことに必死でした。しかし、時代が変わり、WEBだけでなく広告全体においても、ABテストを繰り返しながら効率を求める時代になっています。そんな中で、自分たちの価値は「価格」や「効率」ではないと改めて考えました。私たちの使命は、誰も見たことがないものを生み出し、人々を驚かせ、たくさんの人を惹きつけるコンテンツを生み出すこと。あらゆる手を尽くして創意工夫を重ね、唯一無二の体験を生み出そうとするところにWhatever.Coの価値を感じていただけているのかもしれません」と話す。
3. これからを生き抜いていくクリエイターへのエール
最後に、二人はこれからのクリエイターに向け、エールを送った。
「クリエイティブを職業として捉えている人と、マインドや生き方として捉えている人の間には、大きな差があると思います。そういうマインドやメンタリティがクリエイティビティに表れるんじゃないかな」と富永氏は語る。クリエイティブを単なる職業としてではなく、生き方そのものとして追求する情熱が、困難を乗り越え、目標を達成する原動力となるのだ。
北村氏は、「本当に(クリエイティブやものづくりが)好きだったら、突き進んだ方がいいと思います。ただ、好きじゃないかもとか、富永さんがいうところの、情熱や新しいモノやコト生み出したいというメンタリティがない人、”自分ってサラリーマンクリエイターかも”って感じてしまうような人なら、クリエイターとして戦うのはやめたほうがいいと思います。絶対、他のプロフェッショナルなクリエイターたちに勝てないから。」と語り、安易な気持ちでクリエイターを目指すのではなく、覚悟を持って挑戦することの大切さを説いた。
本イベントは、参加者にとって、これからの時代を生き抜くための指針となる貴重な機会となった。変化の激しい時代において、クリエイターには常に変化を恐れず、学び続ける姿勢、そして困難を乗り越え、目標を達成する情熱が求められる。
4. 共同主催3団体の代表によるラップアップ
最後に、共同主催である武蔵野美術大学から河野通義氏、インテルから上野晶子氏、オプサーから諸石真吾氏が登壇し、イベントを締め括った。北村氏と富永氏のセッションを踏まえ、ラップアップではクリエイティブ分野における教育、技術、ビジネスの連携について議論が交わされた。
諸石氏は、AI技術の進化など、クリエイターを取り巻く環境が大きく変化している中で、個としてのクリエイターの魅力や力をもっと伝えていくことが必要ではないかと語る。それに貢献するために、クリエイターの価値を最大限に引き出し、ビジネスに繋げられるようなサービスを提供していきたいという志を示した。

一方、河野氏は、美大は誤解されがちだが、卒業すれば一般的な企業に就職する学生も多数いる。企業に就職するにしても、クリエイターとして独立するにしても、卒業すれば一人の社会人・ビジネスパーソンとして生きていかなければならないと考えると、北村氏と富永氏の話は、実際のビジネスの現場感覚や、ビジネスパーソンとしての視座について、色々な角度でお話しいただけたと感じた、と話す。さらに、河野氏は、今後、もっと学生たちに今回のような現場を経験している人たちの話を知ってもらう機会を増やしたいと語った。

上野氏は、2025年が昭和100年という節目の年であることを挙げ、デジタル技術の歴史を振り返ると、その変遷の中で、自身も企業側として多くのクリエイターと仕事をし、達成感を得てきた経験があると話す。昨今、AIの登場によってクリエイティブの領域も急激な変化を遂げているが、こうした技術革新が今後のクリエイティビティにどのような影響を与えるか、また、働き方が多様化する中で、企業とクリエイターが協力し、互いに刺激し合いながら新しい価値を生み出すプロセスのあり方について、企業としてどう向き合うべきかを考えさせられると語った。
5. 今後のご案内
第2回MaとChiの寺子屋も、メインセッションにご登壇いただいたスピーカーのお二人、共同主催者と参加者の皆様のご協力のおかげで盛況に終わることができました。
今後も、学生から社会人まで、気軽にクリエイティビティを磨ける場をご提供できるよう努めてまいります。
MaとChiの寺子屋の次回のご案内はPeatixイベントページより行いますのでフォローお願いします。
本イベントに関わる各種団体の詳細や、今後のご案内については以下をご確認ください。
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