CEO・COO対談【3/3:最初の事業】
多湖大師 / 諸石真吾
「Create Design Cycle~デザインで社会を循環させる~」をコンセプトとした、クリエイターと企業を繋ぐビジネスマッチングサービス「opusr(オプサー)」を運営するHeurithm(ヒューリズム)。
今回はヒューリズムの創業者であるCEO・多湖、COO・諸石による対談記事を三編にわたってお届けします。
第三節は、ヒューリズムの最初の事業である「オプサー」をリリースするに至った背景や、オプサーにかける想いについて聞きました。
クリエイターファーストの環境を目指して:オプサーのサービスローンチ
ー(編集部)ヒューリズムとして最初の事業である「オプサー」について、サービス内容は「実力のあるクリエイターと企業を繋ぐマッチングプラットフォーム」ということになるかと思いますが、このサービスはヒューリズムの理念やお二人の思想とどのようにリンクしているのでしょうか。
多湖
まず、簡単にサービス開発までの経緯をお話ししますと、私も諸石も広告業界に身を置いて長いですが、諸石が前職で新規のクリエイターを探していたときに、なかなか自身のイメージに合ったクリエイティブを作れる人材が見つからない経験をしたという話を聞いて、私も思い当たる節がありました。
諸石はクリエイターを探す側で困ったという経験を持っていましたが、探されるクリエイター側にはどのような課題があるのかを明らかにしたく、人づてでクリエイターをご紹介いただき100人弱のデプスインタビューを行いました。
その結果、企業がクリエイターを採用する今のプロセスにおいては、商流に様々な人が介在することで情報格差が生じるという構造的な問題や、フリーランスの個人クリエイターが増加したことで価格競争に巻き込まれてしまう厳しい競争環境など、クリエイター側も様々な課題に直面していることがわかってきました。
諸石
そうした環境が生じてしまうのは、やはり、基本的に企業とクリエイターをつなぐ既存の仕組みが、クライアント優位、クライアントファーストの構造になってしまっていることに起因しているからだと考えています。
自分が音楽の世界に没頭し創作活動に携わっていたこともあって、人の心を動かす何かを生み出せる人はやはりかっこいいと思いますし、私は尊敬しています。しかし、それを生業にしている人たちが世の中で正しく評価されておらず、価格競争に巻き込まれたり厳しい契約条件で仕事を受けざるを得ない環境になってしまっているとしたら、非常に残念だと感じました。そこで、クリエイターファーストなクライアントとの架け橋を作れないか、と考えたわけです。
多湖
私ももともと学生の頃から自身で映像制作を行っており、映像や企画に関わる仕事を手がけていたのでクリエイターの気持ちに共感する部分も多いです。
制作に直接関わったことがないとなかなか想像がつかないかもしれませんが、クリエイターは映像1つを仕上げるために、0.1秒ごとのクオリティを真剣に追求して仕事しています。
こうしたディティールへのこだわりが、最終的に良いアウトプットにつながっていくと思いますし、実際、それを信じて非常に多くの時間をかけて作られているクリエイティブはたくさんあると考えています。
しかし、クリエイターを起用する側はそんな事情は認識していないでしょうし、実際、クライアントサイドも納期やコストを重視する中で品質は二の次で安く受注してくれるクリエイターを優先してしまうということもあるかと思います。
ただ、こうした状況を放置してしまうと、結果的に高品質のアウトプットを生み出すことのできるクリエイターが、その実力に見合った報酬を受け取ることができなくなり、クリエイターの業界自体が疲弊してしまいます。
Apple社のiPhoneやMAC、テレビ業界におけるSamsung、あるいは、昨今の様々なWEBサービス、どれをとっても多くの人々に選ばれる要素として「デザイン」は非常に重要視される時代になってきています。
そんな中で、クリエイター業界が疲弊し、腕の良いクリエイターが少なくなったり、クライアントと出会うことなく埋もれてしまうような環境になってしまうと、日本の多くの企業にとっても重大な損失になりかねません。そうならないためにも、腕の良いクリエイターと出会う機会、その選択肢を増やすためのサービスは必要なのではないかという結論に至りました。
諸石
こうやって振り返りながらお話しすると、最初から課題が明白で意義もあって、やる理由しかないように聞こえるかもしれません。しかし、正直に言えば、デプスインタビューで実態を把握して課題があることがわかっても、ビジネスとして考えると、マーケットが小さいとか、仮に事業が成立しても利益が出ないかもしれないとか、やらない理由の方が沢山ありました。
しかし、オプサーのような事業が今クリエイターには求められている可能性があり、この事業を実現した結果、これまで見過ごされていた腕の良いクリエイターが一層活躍するような環境が作れたら純粋にかっこいいと感じましたし、この課題は解決すべきだという感覚が多湖と私の間でもしっかり重なっていたと思います。
こうした論理だけでは語れない部分について、直感的にやるべきと判断し、素早く行動に移していくというのがまさにヒューリズムっぽいところなのではないかと思っています。
多湖
実際、2022年の11月にオプサーベータ版を開発して、複数のクライアントやクリエイターに利用していただきましたが、企業とクライアントの双方から非常に良い反響をいただいております。
ー(編集部)あえて意地悪な質問をしてみますが、そうした課題がクリエイターに聞いて出てくる、という現状がある中で、これまでその課題について解決されてこなかったわけですよね。それはなぜなのでしょうか。
多湖
一つは、これまでの時代はデザイナーよりも他の業種の方が儲かる仕事だったからです。
例えば、最近はエンジニアの需要が高まっているからエンジニアを目指す人も増えるし、エンジニアに対する様々なサービスも増えていきますよね。しかし、デザインは歴史こそあれども、デザインというものが商業的に日の目を浴びて今のエンジニアのように活性化した時期というのは長くありません。
2018年に経産省が発表した『デザイン経営宣言』に代表されるように、ビジネスにおいてデザインが重要であるという気運はここ数年で急に高まり、デザインへの注目は集まっています。
しかし、エンジニアの世界のように注目度に合わせて環境自体が改善されていっているわけではありません。特定の産業や業種が活性化するには、周辺環境の追随も必要不可欠ですが、クリエイターの世界は残念ながらまだそこまでの活性化は起きていないと言えます。同じ”クリエイター”という言葉でも、デザイナーなどのプロフェッショナルを指す言葉とは別に”クリエイターエコノミー”のようなムーブメントは起きていますが・・・
ー(編集部)歴史は長いのに軽視されてきた、というのはなぜなのでしょうか。
多湖
いくつか問題があって、一つは今の多くの企業で意思決定を行なっている層は、昨今のようにデザインが重要だと言われる時代のビジネス経験が乏しいことです。機能が重視される時代のビジネスを牽引された方々は、純粋にデザインに関する学習機会も少なかったでしょうし、その分、デザインに対する理解度は相対的に低いと考えられます。
もう一つは、需要と供給の問題で、結局、デザインに対して投資するという案件の増加の速度が遅いことです。エンジニアのように技術発達と連動して加速度的に需要が増加すれば関連サービスの増加の速度も速くなりますが、デザイン業界はITほどのスピード感では伸びていないというのが要因として考えられます。そのため、仮に課題に気付いたとしても、それを解決しようという人が現れない。
また、別の観点からは、デザイナー側もデザインの力をしっかりとビジネスに転換していくという活動を怠ってきた可能性があります。デザイン自体に付加価値や意味を見出し、それそのものをビジネスに変えていかなければ、デザインに対して事業責任者の資源は投入されません。しかし、受託して制作するというプロセスだけを長く経験し過ぎてしまうことで、このようなデザインそのものをビジネス化していくということの重要性について気付けなくなってしまうのだと考えられます。
ー(編集部)実際にオプサーを開発してから、良い反響があったとのことですが、具体的なエピソードなどありますでしょうか。
多湖
それこそ「新しい選択肢を創出する」を体現している例ですが、オプサー経由でお仕事を受注されたあるデザイナーさんは、WEB制作をメインの業務領域としていたものの、クライアントにアウトプットを気に入っていただき、ポップアップストアの制作まで受注の幅が広がったという報告を聞きました。
受注した案件がポートフォリオに追加されて、そのポートフォリオが次の仕事につながり、仕事の幅が広がっていく、こういう好循環の中でクリエイターさんの選択肢が増えていくのはとても良い傾向だと感じます。
諸石
仕事の幅だけでなく、実際に生活面でも変化があったというクリエイターさんもいらっしゃいました。
今まで絶対に繋がることのなかったクライアントとの出会いが生まれて、事前にクリエイターのアウトプットの質が確認できるオプサーでは、それに応じた価格条件を提示でき、双方がアウトプットの質と条件面で納得した状態で仕事が生まれる。
その結果、クリエイターさん側は収入も増えて、日常の生活が少しだけ豊かになるというケースもありましたし、別のケースでは、オプサーで自身の納得できる条件の案件がしっかりと継続して得られるようになり独立を決心されたというケースもありました。
多湖
こういう結果が出てくるのはサービス提供者としては非常に喜ばしい一方で、同時に、我々は利用してくださる皆さんの生活を変えてしまう可能性に対する責任を抱えることになります。
利用してくださる皆さんの期待により一層応えられるように、自分たちが徹底的に突き詰めた論理と直感に従い、より良いサービスを実現していきたいと考えています。
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